
著:たくみ けいすけ
少年時代
第03話 アメリカ
高校を卒業すると、私は関西の大学へと進んだ。学生生活は、勉学に励むよりも、労働者としての素地を培ったと言えるかも知れない。たくさんのアルバイトを経験したのだが、
それには一つの目的があった。
「アメリカに行ってみたい」
当時、アメリカ旅行は学生にとって一大ブームになっていて、とりわけカリフォルニアは憧れの地だった。
私の知人にも数名、アメリカに旅して、あれはいいだの、素晴らしいだの、尋ねてもいないのに話したがりがいて、いつの間にか大いに影響を受けた。
ラジオのスイッチを入れると、イーグルスの『ホテル・カリフォルニア』等、ウエスト・コースとの音楽が頻繁に流れていた。
なんとか予算の目途も立ち、でっかいリュックを背負い、ハングリーな1ヶ月の旅が始まったのは、私が大学4年の夏だった。
グレイハウンドバスの窓越しに見えるロッキーの山々や、青々と輝く数々の湖。
キャニオンの彼方の大地に落ちるオレンジ色の太陽と、渓谷の隙間から覗くコロラドの大河。
シェラネバダの静かな森の中を透明にきらめきながら流れるヨセミテの川。
視界に飛び込んでくる風景は、眼が痛くなるほど、私を感動させ、疲れた身体をほどよく癒してくれるものだった。
川の畔のふかふかの雑草の絨毯の上で横になり、無数に散らばる星を眺めながら一夜を明かした事もあった。私は大陸を感じていた。

シカゴを発つ日、カナダへ向かうか、南へ下るか、バスステーションの入り口を抜けるまで私は迷っていた。
きっかけは忘れたが、白人の女性と知り合いになり、しばらくロビーのソファーに腰かけて話をした。
彼女は父親に会いに行くと言って、北行きのバスに飛び乗った。
バイバイ。
なぜか、私は、目的もなく南へと向かった。
その頃、もし私の頭の中に釣りと言う遊びに対する意識があったら、間違いなく彼女と
同じバスに喜んで乗り込んでいただろうし、根本的に違った旅をしていたに違いない。
結果論で述べさせてもらうなら、私のアメリカ旅行は、大変残念な時を過ごしてしまったと しか言いようがない。
フライタックルがずらりと並べられているプロショップを雑誌で見付けた時や、日本にはあまりないチョークストリームを独占している釣り人の姿がテレビの画面に映し出されるたび、そう思うのである。
奇しくも、それから2年後、フライフィッシングに私は出会ったのである。