待ってろよ、魚たち。
著:たくみ けいすけ
 
少年時代
 第05話 出会い
写真009筑豊の地での生活にも随分慣れ、同期でこの職についた知人や子ども達と夏の日の夕方や休日、私はのんびりと竿を出してフナやハヤを釣って過ごすようになった。

その頃は、どちらかというと、暇つぶしにやっていただけで、「あの魚を釣りたい」とか「あの川へ行ってみたい」などというワクワクする期待感や、魚の習性や行動を探究しようとする考えなど、さらさら持ち合わせていなかった。

そこそこ釣れたので、それだけで満足だった。

ある日、独身だった私は、寒く淋しい夕食を近くの食堂で済ませ、なんとなく書店に立ち寄り、つかんだ雑誌を何気なく読んでいた。

数冊、目を通した後、私は一冊の薄い本に手を伸ばした。


「新フライマンのためのヤマメとイワナ」と表紙に書かれている。


釣りの本だという事はすぐに分かったが、見たこともない道具、難しそうな用語、そしてスタイル。

「いったいこれは何だろう」とおぼろげに思いながら、ページの中ほどを開いた時、私の身体の中に熱い衝撃が走った。

一枚の写真なのだが、その美しさは他に類を見ない輝きを放っていた。青空に花柄模様の淡いピンク色のカーテンをかけたような体色。精悍な顔。

恥ずかしながら、私はこの時初めて「アマゴ」と呼ばれる魚がこの世に存在することを知った。

早速、この本を購入し、帰宅後、私はコーヒーで身体を温めながら、あの魚のページをまっ先に開いた。


冷静さを取り戻してよく見ると、アマゴの口の先に何かくっついている物がある。


水滴の反射光だと思っていたのだが、銀色でとげとげしくモノトーンのきらめき。

アマゴはフライという聞き慣れない異物をがっちりとくわえていたのだった。

美しい魚を知った感動と、フライフィッシングに引き寄せられていく喜びが、私の頭の中で交錯した。
写真010
この日から、私はフライの書物や渓流釣りの本を読みあさった。

しかし、当時は現在のようにフライフィツシングに関する書物は少なく、数えるほどしかなかった。

ましてや、ビデオや擬似餌釣りを放映するテレビ番組などあるはずもない。

いろいろ自分なりに調べて、ロッドは7.5 ftの5番、リールはダブルテーパーの5番が巻けるもの、リーダーとティペットは6X、そして、フライを数個釣具店で買い揃え、私のフライフィッシングとの闘いが始まった。

渓流釣りの本は書店にたくさん置かれていたので、餌を付けて、どのような方法で釣るのかも学習した。

次の夏、ミミズを静かに流し、一匹のヤマメを見事に手にした時、感激のあまり私の叫び声が谷間に響きわたったことだろう。


これが、私とヤマメとフライフィッシングとの出会いだった。

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