
著:たくみ けいすけ
少年時代
第06話 悩み
一匹のヤマメを釣り上げることに成功した。写真ではなく、正真正銘の美しい真夏の渓魚である。
まずは、安心。
絶好のスタートだった。
しかし、フライタックルを揃えて川土手でロッドを振ってはみるものの、なかなか解説書通りにはいかないし、自分で思い描いていたように進展してはくれなかった。
リーダーやティペットが激しくバチッ、バチッと地面を叩く音がするし、フライはいつの間にか何処かに飛んで行ってしまい、ラインは傷み、悲鳴をあげている。
ロッドティップから先のラインは僅か5〜6ヤード。
解説書を熟読し、時計の文字盤を頭の中の芯にたたき込み、ロッドの振り幅を小さくして、何とか耳障りな音を出さない解決方法を身体に覚え込ませるまでに数ヶ月。
だが、10ヤードラインを出せば、またあの嫌な音が聞こえてくる。
キャスティングの練習と併行して、エサ釣りの経験も回数を重ね、魚を釣る事に少しず つ自信が持てるようになると、5〜6ヤードのキャストでは、かなりポイントに接近しなければならないし、多種多様な攻め方をするのに必ず無理が生じる事がわかってくる。
どうしても10ヤード以上ほしい。
私は、暇さえあれば、連日キャスティングの練習に励むのだった。
しかし、川土手の小道を行き交う人たちの眼に、私の姿はいったいどのように映ったことだろう。
竿とリールのような物を持ってはいるが、水際に立っているわけでもないし、遠くからでも見える太い紐のような物を振り回し、おまけに時々身体に巻き付けたりしている。
不思議でもあり、変な奴だと思われたに違いない。

「時は金なり」とはよく言うが、練習を重ねるたびに、だんだんラインも飛んでくれるようになってきた。
10ヤードのラインぐらいなら楽に出せるようになってきたのだが、フィニッシュの際リーダーとティペットが伸びず、フライがパラシュートを背負ったかのように失速し落下してしまう。
解説書にはライン、リーダー、ティペットが一直線になる事が大切であると明記されている。
「ならない」「できない」「届かない」。
私の筋肉は力むばかりだった。