
著:たくみ けいすけ
少年時代
第08話 比較
フライフィッシングと出会ってすでに一年半が過ぎ去ろうとしていた私だったが、仕事や私事の方も何故かだんだん忙しくなり、そうのんびりと川原でキャスティングばかりしているわけにもいかなくなった。そして4月になると、新しい職員が2名、私の職場に赴任してきた。
一人は学生時代ワンダーフォーゲル部に所属していて、山やキャンプの話になると専門用語や興味深い経験談が溢れるように飛び出してくる彼。
もう一人は釣りが好きで、間違いなく私より実績があり、特にルアーフィツシングについて詳しい彼。
自然の流れだったのだろう。
私たちはいつの間にかつながりあって、「ヤマメ研究会」というサークルを職場内に結成した。メンバーは5人。
ワンダーフォーゲル部だった彼が唯一テントを持っていたので、全員で「会長」に選出した。
また、もう一人の彼からは、ルアーについていろんな事を学んだ。「ブラックバス」という魚名を私が知ったのも、この頃であった。
さて、私はルアーフィッシングについて多少の知識を持ち合わせていたのだが、何となくルアー自体好きになれずにいた。
ルアーの形やけばけばしい色。
当時私は、ルアーに対して不快な印象を抱いていたように思う。
しかし、彼の話を聞くたびに、私のルアーに対するイメージもだんだん変わっていくのだった。
好都合な事に、職場の隣に、何処にでもあるような釣具店があった。
私たちは、この店をよく訪れた。
ルアーも結構置いてあり、ガラスケースの中には、木製のヘドンがずらりと並べられていた。
ルアー一個なのに、ヘドン社の製品は他社と比較してものすごく値段が高い。
製品と値段とその価値の関係など全く分からず、彼にルアーの性質を教えてもらいながら、私は安価なポッパーを一つ購入した。

早速、ブラックバスがいると思われる野池に急ぎ、キャストをくり返した。暇つぶしに来た二人の知人は、私以上に釣りの知識も浅く、「そんな物で釣れるわけがない」と、土手の草むらの陰から時々私に罵声を浴びせ、世間話をしていた。
釣っている本人も、使い方を丁寧に教えてはもらったものの、半信半疑である。私は長い間その位置から動くことなく、届く範囲の水面に向かってルアーを何十回も打ち込んでいた。
ところが、池にせり出したコンクリートにルアーをぶつけた後、2〜3度ポッパーを激しく動かした時、ものすごい水しぶきが池一面に響き渡った。私の投げ釣り用の竿は折れんばかりに曲線を描き、釣り人の私は、腰も抜けかけ驚きの悲鳴をあげていた。
すると、二人の傍観者も何ごとが起きたのかと言わんばかりに血相をかえ、私の所へ駆け寄って来るのだった。
ルアーで私が初めてヒットさせた魚は、魚類とは思えないような表情をした雷魚だったのである。
よって、私が生まれて初めて魚の顎を捕らえたエサのついていないフックは、フライではなくルアーのトリプルフックだったのである。
その夜、私は両者を比較し、何がどう異なるのかを考えていた。
この二つの釣り方を同じ土俵に上げて比べるのは、多少強引かも知れないが、いろんな場面を想定して決定的に質の違うテクニックの部分と言えば、やはり私の苦手なキャスティングであるという結論に達するのだった。
10ヤード、20ヤード、そしてフルキャストと、素晴らしいシューティング能力。
悩みは楽しみでもあり、苦痛でもあった。