
著:たくみ けいすけ
1984年
第14話 下筌ダム
「常に釣り人は、満足のいく魚を釣るための努力を惜しまず、あらゆる可能性を試みるものである。釣り人の目的はただひとつ、それは狙った魚との出会いなのである」
これは、以前読んだアメリカのフライマンが書いていた記事の一節だが、「なるほど」と、私は妙に納得させられた。
なげやりになってはいけない。
しかし、思いは募るばかり。
だが、思いだけでは魚は絶対に釣れやしないことも百も承知。
私は悶々とした日々に、多少あきあきしていた。
師走は駆け足で通り過ぎ、年の瀬がもう間近に迫っていた12月26日、「ヤマメ研究会」は、本来の活動目的を突然思い出し、大分県は下筌ダムへと出かけた。
スズキは釣れなかったし、「もしかしてサクラマスでも…」という一種の逃避だったかもしれないが、気を引き締めて私たちはロッドを出した。
いくら九州と言えども、この季節の山上湖は寒く、雪もぱらつき、時折吹く風は肌を刺すように冷たい。
地面から伝わる冷たさは、下半身をしびれさせる。
それでも、今年最後の遠征とあって、「ヤマメ研究会」の強者三人衆のハートはガンガン燃えていた。
お互いの姿は見えなくても、風を切るロッドの音に熱いエネルギーを感じていた。
この下筌ダム、実は、私がフライフィッシングのホームグラウンドとしてよく通った川原川の終点に位置し、もう一本、鯛王川が流れ込み、今回集中的に攻めた場所は、この二本の川が合流するため、絶好のポイントであると私たちは考えた。

夏場は太い二本の川がはっきりと姿を現すのだが、今はすっかりダムに飲み込まれている。
私たちは、赤い橋の下の広場に車を止め、延々とスプーンのキャストを続けた。
寒すぎるのか、魚がいる気配はなく、私たちの目の前に何の変化もない。
ただ水鳥の声と羽音、コバルトブルーに輝くカワセミが視覚に入ってきただけ。
そして、やがて長い一日も終わり、私たちは冷え切った身体を温泉の湯船の中でゆっくりと休めた。
次の日、やっと私のスプーンに銀化したヤマメがヒットした。
20cmと小粒ではあったが、私たちにとって貴重な一匹であり、冷えた心にそっと暖かな火を灯してくれたような気がするのだった。