待ってろよ、魚たち。
著:たくみ けいすけ
 
1986年
 第26話 引っ越し
写真051引っ越しの際は、会長と、新婚一年目のN氏が笑顔で温かい見送りをしてくれた。 しかし、いつまでも淋しい思いばかり身体の中に宿し、毎日の生活を送るようなことだけは避けたいものである。

新しい土地で、一日も早く釣り場を開拓しなければ、どうしても落ち着けない。

転勤して初めて水際に立ったのは、4月20日の朝だった。

ともに釣りをする友人もなく、ただ一人ルアーをキャストした。

何も釣れなかったが、心機一転私の釣りは始まったばかり。

筑紫野市の山間にある山神ダムでの数時間を、私はすがすがしい気分で過ごした。

また、私の釣り雑誌に対する見方の趣向も、この頃から少しずつ変わってきたように思う。

以前は、渓流のフライフィッシングや河口でのシーバスの情報に目が移っていた。

勿論、そのようなページにも目を通しながら、更に私の気を引く情報は、ダム湖のブラックバスやトラウトの記載されている部分へと移っていった。

写真052釣りを愛する者なら、誰でもそうだと思うが、やはり自分が狙う魚について詳しく書かれているページや、自宅に近い釣り場の情報に、強く興味を引かれ影響を受けるものである。

つまり、この頃の私は、多少ピークも過ぎた感もする甘木市の江川ダムのニジマスやブラウントラウトに感心を持つようになっていた。

そして、この年の秋から私の江川ダム通いが始まり、行くたびに精神的な苦痛をしょいこむとは、この時は全く予想もしなかった。

5月の連休こそ、懐かしの川原川へと出かけたが、まずは近場を探ってみようと、穂波川や南畑ダムへ流れ込む那珂川を訪れてみた。

食い気がないのか、自慢のエルクヘアカディスを尾ビレではたく奴がいて、那珂川では随分悩まされた。

4〜5回、ひとりで渓流へと出かけたが、笑みを浮かべて帰宅することは一度たりともなかった。


新参者には、そう易々と賢い魚たちは掛かってくれなかった。


7月23日の夕方、山神ダムへ気晴らしにブラックバスを釣りに出かけた。

魚が集まっていたのか、嘘のように、ほんの2時間程で20匹あまりのブラックバスが私のルアーを襲い、片っ端からランディングに成功した。

過去、数釣りの経験のない私にとって、とても楽しいひとときとなった。

多分、ブラックバスが放流されて、あまり歳月が過ぎていなかったのだろう。

釣れる魚は、全て小型の可愛い奴ばかりだった。

第25話    目次    第27話