
著:たくみ けいすけ
1986年
第27話 匹見峡
住んでいる場所は離れていても、釣りの素晴らしさを忘れない限り、気持ちは通じ合うものである。久しぶりに会長と私は会い、のんびとり爽やかな風に吹かれながら、島根県は裏匹見の谷川をめざした。
よって、8月1日の朝はいつになく懐かしい朝になった。
フライフィッシングやルアーフィッシングのいろはから共に悩み、喜び合った友との4ヶ月振りの再会は、私の身体の中に熱いものを呼び戻してくれた。
高速道路を突っ走り、私たちはキャンプ場に早速テントを張り、釣りの準備に取りかかった。
二人ともキャンプは手慣れたものである。
私は、会長からキャンプについて、いろんなことを教わった。
ランタンやストーブ、テントや食器類、そして天候や動植物等、一般的な自然についての知識まで、私は彼から吸収した。
キャンプの夜は静かで長い。
私たちは、仕事の煩わしさから開放され、時間を忘れ、酒を飲み、そして、語り合った。
1日の夕方、キャンプ場に到着すると、私たちは、すぐ横を流れる川へと釣りに出かけた。
しばらく歩いていて、会長はパックロッドの一部をなくしてしまい、少々がっかりしていたが、もう一本のスピニングロッドで24cmのヤマメをヒットさせ、気を取り直していた。
胃の内容物を調べてみると、こがね虫などの甲虫がぎっしり詰まっていて、私たちは驚かされた。
私のフライにも4〜5回ヤマメがバシッと飛び出したのだが、どうしてもフッキングには至らなかった。
森林の心地よい香りと清らかな渓流の流れに包まれ、Tシャツには夏の汗がにじんでいた。
次の日も早朝から雲ひとつない晴天に恵まれ、私たちは釣りに出かけた。私は広見川本流でのフライフィッシング。
会長は、夕方の川をもう一度攻め、18cmのイワナと17cmのヤマメをスピナーでキャッチして帰ってきた。
昼間はどうしてもフライへの反応が鈍いので、私もルアーにチェンジ。
21cmのアマゴをキャッチしてひと安心。
胃の中には大きなトンボが入っていて、これにもビックリさせられた。
疲れることなく、夕方には会長が、25cmのニジマスと18cmと10cmのアマゴを短時間のうちにヒットさせ、この川で4種類の魚を釣ってしまったと、彼は非常に満足していた。
そして3日目の朝も、寝不足の目を擦りながら、私たちは島根最後の釣りを楽しみ、キャンプ場を後にした。
しかし会長は、お気に入りのメッシュのフライベストを釣り場に置き忘れてしまったことに気づき、帰り道、多少元気がなかった。
会長はルアーフィッシング、私はフライフィッシング。
二種類の異なった釣り方で平等に川を攻めてみたつもりだが、どうしてもルアーフィツシングの方に分があるようだ。
私のテクニックの未熟さが原因なのかも知れないが、フライに匹見峡の魚たちは興味がないのだろうか。
フライの選択の過ちなのか、キャスティングやデッドドリフトのまずさなのか、それとも根本的に見逃していることがあるのだろうか。
疑問を解決できないまま、私はフライフィッシングの狭くて底の見えない深みへとはまり込んでいくのだった。