
著:たくみ けいすけ
1987年
第36話 椎葉2
8月7日、会長と私は久しぶりに釣りを共にした。
目的地は宮崎県は椎葉尾前川。
2泊3日の釣り三昧の旅である。
私としては二度目の椎葉行きだったし、前回20匹程のヤマメと出会えているので、待ち遠しい思いでこの日を迎えた。
ダム湖ではさえない私だが、渓流には多少の自信を持っていたのである。
また、気の済むまでフライフィッシングを堪能できると思うと、じっとしてはいられない。
しかし、私の場合、大きな期待を抱きすぎると、逆に現実は冷ややかな歓迎しかしてくれないようで、24匹の椎葉どころか、ドライフライにヒットしたのは20cmと12cmのヤマメ2匹に終わった。
会長はスピナーで数こそ釣っていたのだが、サイズとしては物足りなくて、やはり不満げな顔をしていた。 私たちは道沿いの狭いスペースにテントを張り、そこを拠点に尾前川の本支流を釣り歩いたのだが、夕食時の酒は、釣果に関わらず格別の安らぎを、私たちに与えてくれた。
勿論、酒の肴はヤマメの塩焼きなのだが、会長も私も一匹食べれば十分な性分のため、渓流釣り師としては大変お行儀が良く、二人で3匹キープして他は全てリリースなのである。
あと一匹は、クッキング好きの会長が思いついたのだが、炊き込みご飯の中にヤマメを丸ごとぶち込んで作る「会長特製ヤマメご飯」に使用した。
私たちのキャンプでは欠かせないメインディッシュの貴重な素材として、3匹目のヤマメを必ずキープすることにしていた。
微妙な水加減と火力調整が決め手のようで、コッヘルの蓋を開けた時のほのかな甘いヤマメの香りは、私たちの食欲をそそった。
狭い空に輝く無数の星と、暗い森から聞こえてくる虫の鳴き声、そして全てをかき消してしまいそうな谷川の水の流れ落ちる響きに囲まれ、私たちは夜更けまで語り合った。