
著:たくみ けいすけ
1988年
第39話 池田湖1
夢にまで見た憧れの湖、池田湖。
見たことのない湖が、今、現実のものになろうとしている。
出発前夜、私は日記に、このような事を記している。
「明日から待ちに待ったビッグトラウトへの夢を乗せ、池田湖へと出発する。
江川ダムでは、数十回に及ぶ挑戦も不発の連続。
マス族と会える日は訪れないのだろうか―と苦悩の日々は続いた。
スプーンのカウントダウン、表層でのリーリング。
三拍子や四拍子にリーリングを合わせてみたり、暗闇の中でのキャスト。
そして、ミノーメーキング等、ただ一匹のトラウトを釣り上げるために、試行錯誤の繰り返し。
魚の事を忘れた日は一日たりともなかった。
燻製機まで作ってしまったのは、大きな間違いだったのか」 池田湖に到着したのは、午後零時30分。
スカイラインの終点ゲートをくぐると、山々も薄いもやに包まれ、水を満々とたたえる感動の湖が、私の目の前にその全貌を現した。
助手席に寝ていたT氏を起こし、私たちは、レストラン「パラダイス」前の湖面をじっと見つめていた。
300km、5時間程、私たちは車を走らせて来たわけだが、湖の美しさや雄大な風景を全身で感じていると、自然と疲れは心地よい感触へと変わっていった。
「とうとう来たぞ」と、こんなことを私は心の中で呟き、何だか池田湖が自分の物にでもなったかのような錯覚を覚えた。 そしてこの時、私はビッグトラウトをすぐにでも自分の手中に納めることができるような、とんでもなく大きな勘違いをしていたのも事実であった。
一日目は、食堂「いろり」下の浜と、パラダイス前でスプーンをキャストした。
二日目は、パラダイス前、ポンプ小屋、尾下と、夕方まで場所を変えながらロッドを振り続けた。
パラダイス前に始まり、雑誌で知ったほとんどのポイントを、私たちは一周したわけである。
湖は素晴らしいし、ルアーマンにもたくさん出会った。
しかし、魚に関する情報を全く得ることができず、私たちは池田湖を後にする結果となった。
つまり、ライズも魚の姿も確認できなかったし、ましてや、すれ違う釣り人からは「なかなか釣れませんね」といった返事しか聞くことができず、本当にこの湖にマス族が住みついているのだろうかという疑問を、どうしてもぬぐい去る事ができなかった。
「あんな浅い場所で魚が釣れるなんて」急深な人造湖しか知らない私だからこそ、どうしても魚が釣れたという羨ましい現実を納得する訳にはいかなかった。