待ってろよ、魚たち。
著:たくみ けいすけ
 
1988年
 第43話 喪失
写真029さて、椎葉での喜びも束の間。

私の宿敵でもありホームグラウンドは、何と言っても江川ダムである。

盆が過ぎ、朝夕の涼しさを肌で感じる頃になると、私は強い磁石にでも引かれるように、車をダム湖へと走らせた。

結論を先に述べると、この年、秋から冬にかけて、待望のマス族の姿を確認することはできずにいた。

冷たい雨や強風、そして寒さに耐えながらキャスティングを重ねた、計15回の江川ダムでの頑張りも、高い壁に阻まれたように受け入れてはもらえなかった。

写真030ここまでくると、すでに釣りの面白さなど何もなく、ただ質の悪い意地っ張りがロッドを振っているだけである。

湖面を後にして、急な坂道をくたくたになった身体をなんとか動かしながら登る時、「自分はこの先どうしたらいいのだろう」と、回数を重ねるごとに、私は見えない深みにはまり込んでいくような気がするのだった。

つまり、自信も意欲も、私は完全に喪失してしまっていた。

私はサンデーアングラーなので、休日の早朝から活動を開始すると、実質、疲れた身体を休める時はない。

仕事の疲労と釣りのストレスを全身に蓄積しながら、私は冬の休暇を迎えるのだった。
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