
著:たくみ けいすけ
1988年
第43話 喪失
さて、椎葉での喜びも束の間。私の宿敵でもありホームグラウンドは、何と言っても江川ダムである。
盆が過ぎ、朝夕の涼しさを肌で感じる頃になると、私は強い磁石にでも引かれるように、車をダム湖へと走らせた。
結論を先に述べると、この年、秋から冬にかけて、待望のマス族の姿を確認することはできずにいた。
冷たい雨や強風、そして寒さに耐えながらキャスティングを重ねた、計15回の江川ダムでの頑張りも、高い壁に阻まれたように受け入れてはもらえなかった。
ここまでくると、すでに釣りの面白さなど何もなく、ただ質の悪い意地っ張りがロッドを振っているだけである。湖面を後にして、急な坂道をくたくたになった身体をなんとか動かしながら登る時、「自分はこの先どうしたらいいのだろう」と、回数を重ねるごとに、私は見えない深みにはまり込んでいくような気がするのだった。
つまり、自信も意欲も、私は完全に喪失してしまっていた。
私はサンデーアングラーなので、休日の早朝から活動を開始すると、実質、疲れた身体を休める時はない。
仕事の疲労と釣りのストレスを全身に蓄積しながら、私は冬の休暇を迎えるのだった。