
著:たくみ けいすけ
1990年
第51話 封印
残暑の厳しい夏の終わり、再び私は江川ダムへ戻ってきた。何度訪れれば、この湖に住むマス族の姿を間近で確認できるのだろうか。
久しぶりの江川ダムのほぼ全貌を駐車スペースの高台から眺め、わずかな期待と厳しい現実を思い浮かべながら、私は車のエンジンを切った。
思えば、筑豊の地で釣りを覚えた頃、ルアーロッドや振出竿を買うたびに、私は魚たちを今よりずっと簡単に手にできたことを覚えている。
この日誌を書く以前のことなのだが、安物のロッドでも、ブラックバスやヤマメや太刀魚たちが面白いようにロッドを弓なりにしてくれた。
新しくロッドを購入しさえすれば、初おろしの日、自分には必ず魚が釣れるという確信さえあった。
だから、不調が続いた時、不用なロッドをあえて買い求めたことも、私の自慢できない思い出といえるだろう。
しかし、この目の前に広がる江川ダムにおいては、そんな私のくだらない都合なんて、まったく通用しないのだった。
このダム湖用に私は何本のルアーロッドを購入しただろう。5フィート半、6フィート、6フィート半、7フィートと4種類のロッドを、スピニングとベイト用にわたって準備した。
中でも、7フィートのスピニングロッドは、「スーパーレインボー」という肩書きで販売されていものであり、私の自慢の一本である。
未だかつて、このお気に入りを、折れる程曲げてくれる魚に出会えないのが、非常に残念である。
8月28日の火曜日は、早朝、ブラックバスを一匹キャッチして終わった。
時折、小魚の群れをブラックバスが水面で捕食しているのが分かる。
次の日は、ワームをキャストしている二人の男性に会い、話をしてみると、以前50cm程のニジマスをヒットさせ、足元でバラシたことがあるらしい。
ただ、彼は、マスを狙っていたのではなく、ブラックバスの外道としてヒットしたらしかった。
9月15日は、朝からどしゃぶりの雨に見舞われ、1時間ほどの釣りで断念せざるを得なかったし、22日も翌日も、キャストする音声だけが空しく辺りに響いた。
その後も4〜5回、懸命にルアーを選定し、リーリングを工夫し、ポイントを自分なりに見定めてキャストを繰り返すのだが、ダム湖は静かに沈黙したままだった。
頑と閉ざされた江川ダムの封印を、私はどうしても解くことができずにいた。