待ってろよ、魚たち。
著:たくみ けいすけ
 
1991年
 第54話 夏
写真049暑い夏がやってきた。

この年の夏は本当に暑かった。

渓流でもダム湖でも、空を焦がす太陽は容赦なく私の全身を照らし続けた。

魚の姿さえ見ることすらできなかった日の午後、頭上から降り注ぐ光線と、アスファルトに跳ね返った熱風は、まるで太陽が2個あるような錯覚を思わせた。

異常発生したトンボの群れと、雑草や木々の間を抜けると、水面では盛んにブラックバスがライズを繰り返していた。

早朝のサマーフィッシングの、ワクワクする時間である。

午前6時、正面に見えていた山の稜線から熱い太陽が昇ると、賑わっていた湖面から嘘のようにさっと活気がなくなってしまう。

厳しい日差しを逃れるように、魚も私も水面から離れていく。

リリースしたブラックバスの、ヒットからランディングに至る過程も面白いのだが、湖に立つ私にとって、四季を通じてのマス族のことがどうしても忘れられない。

池田湖で見たレインボーの姿が脳裏に蘇る。

写真052スプーンを思いきりカウントダウンしてのスローなリーリング。

私は、騒がしいシャローな水域を避け、暗く深い泳層に必ずや潜んでいるはずの魚を想定しての早朝のロングキャストに力を込めるのだった。

さて、この夏もいろいろな思いを胸にダム湖通いの日々が続いた。

会長と訪れた6回目の椎葉は、例年にない増水で濁りも影響してか、会長のルアーロッドにさえ、手応えのある魚信は伝わってこなかった。

2泊の予定を一泊に短縮せざるを得なかった程、川の状態は醜いとしか言いようがなかった。

盆を過ぎる頃から、朝夕の外気は何となくひんやりしていて、この時期、江川ダムでも過去にマス族が釣り上げられたという情報を耳にしたことがある。

ほんの僅かな確率を信じて、いや、それだけを心の支えにするしか、この湖に通い続ける訳が自分自身見つけられずにいたのだった。

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