待ってろよ、魚たち。
著:たくみ けいすけ
 
1992年
 第59話 トップウォーター
写真059彼との出会いは、私の生活にも徐々に影響を及ぼした。

これは、お互いに言えることかもしれないが、釣りを通して、私とA氏のつながりが形成されていったことは事実であった。

釣りやキャンプのこと、仕事や家族のこと、そして生活一般について語り合い、私はA氏からいろいろなことを学んでいったような気がする。

さて、3回目の釣りを彼と共にしたのは、日差しが眩しさを増してきた5月のある休日だった。

少々遠出をしてみようと私が彼を案内したのは、以前私が得意のホームグラウンドにしていた大分県の川原川だった。

昔を懐かしみながら、私はエルクヘアカディスのソフトなプレゼンテーションを繰り返した。

A氏はウルトラライトのルアーロッドを購入したらしく、スピナーでのキャスティングに熱中していた。

いっこうにフライへの反応のない私とは逆に、A氏は25cmの良型ヤマメをニッコリとした表情と慣れた手つきでランディングさせていた。

彼はその後も2匹の魚を釣り上げ、リリースする余裕さえ伺えた。

すっかり渓流でのルアーフィッシングのコツをマスターしたらしい。

5月下旬には、再びA氏から釣りの誘いの電話があった。

楽しい思い出を作ってくれた川原川へもう一度出かけようというのだ。

すぐさま承知し、次の休日、彼と私は期待に胸膨らませ、夜中の3時過ぎ、目的の川へと車を走らせた。

谷川へ入ってしばらくすると、A氏が、顔は笑っているのだが声震わせて私の方へ駆け寄って来た。

見ると、尺物に近い、ヤマメというより尾ビレのスマートなサクラマスっぽい魚をしっかり握っている。

わたしにとっても久しぶりに見る大物である。

写真002パーマークよりもシルバーの色彩の方が強く、ダム湖育ちといった印象を受ける一匹だった。

しかし私の方は、フライロッドを曲げてくれる魚になかなかめぐり会えない。

彼に渓流の魅力を教えた私の立場も揺らぎかねない。

最近A氏との同行で、私は目的の魚を手中に納めていないのである。

ここで何とか一匹の魚を釣り上げたいという私の気持ちも理解して戴けると思う。

そして、やっと執念が実を結んだのか、ホワイト系のパラシュートフライにヒットしてくれたのは、20cm程の綺麗で元気なヤマメだった。

彼には何も言わなかったが、私は内心ホットしていた。

その後私は、近くの野池やダム湖を気楽に楽しめるブラックバス釣りに熱中した。

6月から8月にかけて、日記のページをめくると12回の釣行を重ねている。

釣れない日はなかったし、無性に私をはまり込ませたのは、釣れる面白さというよりも、トップウォーターでのスリリングな魚へのアプローチにあった。

ホッパーやペンシルベイトをタイミングを重視しながら、どのように操るかという醍醐味が、非常に刺激的で止められない。

何となく飼い猫に玉を取らせているような感覚で、私は時を忘れ夢中になった。

ナチュラルドリフトを鉄則とするドライフライフィッシングも、これと似たようなものにのかも知れない。

水面にふわりと浮いたフライの選択は、魚の食をどのサイズやカラーがそそるかにかかっているだろうし、同様にブラックバスをトップでヒットさせるテクニックも、アクションのかけ方によって、魚の神経をいかにして刺激するかに左右されると思うのである。

この頃を機に、私はトップの釣りに凄くこだわるようになっていった。

一匹の魚を釣るにしても、「釣ってやったぞ!」とエキサイティングに、かつ視覚的に体感できるプロセスがないと、私は釣りをしている気がしなくなっていた。

そして私は、ブラックバスのフライフィッシングへとのめり込んでいくのだった。

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