
著:たくみ けいすけ
1月5日から二泊三日で、私は9回目の池田湖を訪ねた。
会長は風邪気味のため同行できず、私と息子たち二人、そしてA氏の家族4人の計7人で、マス族の棲息する憧れの湖をめざした。
A氏の家族は、俄然池田湖に燃え、前年度ぐらいから休みを利用して通い詰めていた。
幸か不幸か、私の家にある剥製がA氏の家族全員に多大なる影響を及ぼしたらしく、特にA氏夫婦は燃えに燃えている。
新しいロッドやリールはもとより、釣れそうなスプーン類、おそろいのチェストハイウェーダーやベスト類、たちまち道具が買い揃えられ、A氏夫婦の魂は常に池田湖に飛んでいるような錯覚さえさえ覚えた。
私だって、一昨年、池田湖のニジマスと出会うことが出来ずにいたら、今頃どんな心境でこの地を訪れていただろう。
とてつもない釣り人を狂わす神秘的な力を持っているのが、池田湖のマス族なのかもしれない。
さて、A氏の家族とこの湖を訪れるようになって、釣りにだけ集中していた私の池田湖が、少しずつ変化を帯びてきた。
それは、A氏の影響を徐々に受けたのか、湖だけではなく、子ども達のことも考えての釣り旅行へと変容していったのであった。
つまり、朝夕のベストタイムはキャスティングに専念し、日中のひとときを家族サービスとして近くの植物園や動物園、名所などの観光に当てる。
トータルとして考えると、A氏のやり方は、みんなが絶対に飽きのこないよう実にうまく仕上げているように思えた。
湖しか知らず、湖から一歩も外へ出たことのない私にとって、最初、日中の時間がもったいないように感じたのだが、家族の理解の上に娯楽は成り立っているとするならば、これこそ一石二鳥である。
私は今まで、我が一人だけ突っ走り、家族と一緒に何かを楽しもうとしていなかった。
釣りとなると目がなく、懸命に魚を追いかけていた。
そして、私はA氏の家族に対する考え方を学び、反省し、変わらなければならない自分を強く意識するようになっていた。
そしてA氏は、いろんな所を散策し、信じられないくらい宿泊費が安く、鰹のたたきの美味しい宿を探し当て、そのことが一層湖への情熱に拍車をかけた。
また、彼の奥さんもどちらかというと、都会派というより自然派で、学生の頃、バードウォッチングを愛好していたらしく、鳥の名称や生態にはめっぽう詳しい。
池田湖を囲む森には、いろんな鳥が生息しており、決して退屈はしない。
娘たちはカメラのファインダーを覗き込み、珍しい野鳥を見つけては、シャッターを切っている。
長女は絵を描いたり小物を作るのが得意で、手先が器用なため、いつの間にかフライタイングに興味を持ち、ときどき私の家に来ては「おじちゃん、フライの作り方を教えて」と要求するのだった。
次女は、見ていて気持ちがいいほど元気はつらつの自然児である。
以前はこんな家族ではなかったように思うのだが、A氏の家族設計が着実に実を結んだのだろう。
今は、釣りとキャンプと自然大好きという点では、これほどまでに一致団結した家族は、私はかつて見たことがない。
昨年の夏は、鹿川の険しい谷を4人で力を合わせて釣り上ったらしく、この家族にかかっては、向かうところ敵なしなのである。
よって、ついつい私も冗談で、「次は、激流でのイカダ下りですか?」とか「4人でパラシュートを背負って滝壺に飛び込む計画はできたの?」など、言ってしまう。
そして、私がただの思いつきでA氏の家族に「アドベンチャーファミリー」というニックネームを付けたのも、この頃であった。
都会での虚しいサラリーマン生活を捨て、絵のように美しいカナダの山奥に小屋を建てて静かに暮らす家族の映画を、私は以前見たことがあり、その映画のいくつかのシーンが、何となくA氏の家族と重なって感じられたからである。
もしかして、「アドベンチャーファミリー」の「A」は、A氏の名字の頭文字の「A」なのかもしれない。
それから間もなくして、A氏の自宅の車庫にでっかいキャンピングカーがやってきた。
九州狭しと、この車が楽しい4人を乗せて走り回っていることは言うまでもない。
さて今回も、池田湖のマス族たちは、結局私たちの予想通り姿を現すことはなかった。
何度この湖を訪れたのか知らないが、絶望気味のA氏に対し、悔しさをバネにして更にヒートアップする奥さんの姿が可笑しかった。
また、私の次男は、寒い中一生懸命ルアーをキャストして頑張っていた。
その姿を頼もしく感じたのは、やはり私が父親になったからであろう。