待ってろよ、魚たち。
著:たくみ けいすけ
 
1995年
 第68話 バックテールストリーマー
写真019気分も新たに、私は11回目の池田湖へと向かった。

今回は全く気負いもなく、大変リラックスした状態でフライロッドを握ることができたし、先端に結んだストリーマーもスムーズに伸びた。

実は今回、私はわずかな期待を抱きながら湖を訪れていた。

それは、ある釣具店で紹介してもらったバックテールストリーマーをフライボックスに忍ばせて、是非このフライを使用してみようと考えてたからである。

私は、今までにフライの世界で定番となっている伝統的なフライをたくさん巻いてみたのだが、どれを使ってもなぜか釣れる気がしなかったし、実際に釣れなかった。

フライフィッシングの場合、まず結んでいるフライに絶対的な自信を持つことは、キャスティングを行う上で大切な要素である。

そういう意味でも、使ったことも実際に魚を釣ったこともないのだが、私のフライボックスに静かに眠るバックテールストリーマーは、私は他のフライにないものを強く感じていた。

化学繊維で作られた赤やピンクや青く光る長めの尻尾、ヘッドにはマイラーチューブがかもしだす鱗模様に刺激的な目を持ち、見事にマス族たちの食欲をそそるワカサギのイミテーションを形作っている。

私は、釣具店の主人にタイイングの方法を詳しく目メモしてもらい、その日から自分の机にマテリアルを広げ、丹念にバックテールを巻き始めた。

そして、8番と10番のロックシャンクフックに巻かれたカラフルなバックテールを、私はテーブルの上に並べ、このフライ達が、私とマス族の接点を演じてくれそうな気がしてならなかった。

1月5日、A氏と私は家族と一緒に、まずはパラダイス前に立ちキャスティングを始めた。

この年の池田湖は、前年の少雨の影響で今までにない渇水状態にあり、岸辺の砂地もかなり広がり、普段なら水中にあるはずの岩が露出していた。

よって、マス族が浅瀬を回遊する際の目印になるような大石や岩も水中には少なく、また、今までの回遊コースは既に陸地化されているだめ、魚たちは泳ぐ姿を私たちの視野に入れることはできないだろうと、私は考えた。

そこで、午後、私たちは尾下集落へ移動し、コイのイケス周りやポンプ小屋方面の浜で思いっきりキャスティングを繰り返した。

次の日も私たちは、尾下ポイントへ直行し、フライロッドやルアーロッドにリールをセットした。

実は、この日の私は、自慢のバックテールとリーマーのキャスティングとスイミングテストを兼ねていた。

写真020私のキャスティングの未熟さに起因する問題なのだろうが、ストリーマーの場合、キャストし易いフライもあれば、しづらいフライもあるように思えるのである。

マテリアルのボリューム次第で生まれる空気抵抗が、私のキャスティングに大きな影響を与えてしまうのであった。

つまり、私はキャスティング時のスムーズなラインコントロールとリトリーブ時の魅力的なスイミングの二点を大切チェックポイントと考え、バックテールのアイに3Xのティペットを通した。

結果的には、私がぞっこん惚れ込んだバックテールは、キャスト時のラインループの感触も良く、リトリーブ時の魚へのアピール度も、泳ぐ様子を見る限り素晴らしく感じられた。

そして、度肝を抜くようなライズは確認できなかったものの、そう易々と私のバックテールに食らいついてくれる池田湖の魚たちは棲息しているはずもなかった。

また、釣り場ですれ違ったフライフィッシャーマンに、A氏が尾下ポイントでの様子を尋ねると、「去年までは良かったんですけどね」という返事が返ってきたらしい。

私は広い湖を眺めながら、「去年」という言葉がどうしても引っ掛かり、なぜか首をかしげてしまうのだった。

そして、釣りを終え急いで帰る私たちの進路を阻むように、高速道路を濃霧が襲い、くたくに疲れながら先も見えず渋滞のひどい国道を走って、私たちはやっと自宅へたどり着くのだった。

数日後私は、現在の池田湖でのマス族の実績を知りたくて、信頼のおける鹿児島市の釣具店へ電話をかけた。

減水のため、パラダイス前での釣りは厳しいのではないかという点では、主人と私の考えは一致した。

ただ、マス族の捕食するワカサギの行動については、非常に興味ある話を、私は主人から聞くことができた。

主人の話によると、ワカサギはほぼ半年にわたって産卵を繰り返し、3月から4月にかけて最も陸地へ接岸するらしい。

つまり、秋から初冬にかけてのマス族の産卵期を除くと、釣り人が渓流をめざす春の季節に湖の魚を狙わないのは勿体ないと、この釣具店の主人は力説するのであった。

そして、A氏は2月下旬、私は3月下旬、お互い一泊で別々の池田湖を訪ねたが、湖は私たちの計画を虚しく裏切るだけだった。

特に湖と約束した訳でもないので、裏切るという表現は適切ではないかもしれないが、余りにも大きな期待を寄せるのは禁物であることを、私たちは改めて思い知らされたのだった。

家族5人で山川町の海岸にある砂風呂に立ち寄り、身体の中にある嫌な疲れを癒し、身も心もリフレッシュさせて帰路についた、私にとって12回目の池田湖。

だが、A氏は池田湖通いに疲れ果て、うんざりした表情で、「あんな魚、釣れるわけがない。

二度とあの湖には行きたくない」と呟くのだった。

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